税理士業界トピックス

税金・会計に関するニュースを分かりやすく解説します

2015.06.11

マイナンバーに関する一考察

日本年金機構の年金登録情報流出問題から、甘利明経済再生相はこのほど「年金へのマイナンバー(社会保障・税番号制度)の対応はまだ先になりそう」と慎重な姿勢を見せましたが、「マイナンバー自体、リスク対策は大丈夫なの?」との声も大きくなっています。

基本的に、こうした声はマスコミが先導しているのですが、マイナンバーの先進国アメリカを見てみると、なんと情報流出による還付金詐欺が増え、IRS(内国歳入庁)は数十億円もの予算をつぎ込んで、還付金詐欺対策に取り組んでいます。マスコミ報道によると、アメリカでは社会保障番号などの個人情報が数千万件単位で流出し、今年5月下旬には最大で1万3千件、3900万ドル(約49億円)が詐欺されたそうです。こうした状況から最近では、国民から社会保障番号制度の見直しを求める声も出てきたとのことです。

アメリカの事例を見てみると、日本の情報管理は大丈夫なの?と気になりますが、私個人としては、「会計事務所のマイナンバー対応も大丈夫なの?」と、こちらも気になります。税理士会では、最優先問題としてセミナーを開催していますが、会計事務所の場合、事業者としての「従業員のマイナンバー」と、「顧客のマイナンバー」の二つの管理問題が出てきます。
従業員の源泉徴収票など税に関する書類や、健康保険など社会保障に関する書類にマイナンバーの記載が義務づけられるため、従業員とその家族のマイナンバーを取得する必要があります。とはいうものの、なかにはマイナンバーの提出を拒否する従業員も予想できますので、事前に就業規則を見直すなど、全員提出を義務付けるなどの対策が必要になりそうです。

マイナンバーは、秘匿性が非常に高い情報なので厳重な保管を含めた安全管理措置が求められます。
そして、従業員が退職したときなど、その職員のマイナンバーが不要になりますが、原則7年間厳重に保管した上で、復元不可能な形で破棄するというルールが定められています。つまり、従業員が入社してから退社した後も厳格な管理が必要となるわけです。
自社の従業員のマイナンバーを外部に委託する際には、従業員の許諾を受ける必要があります。

顧客のマイナンバーについては、法人番号のほか、役員及びその家族、従業員及びその家族のマイナンバー管理が不可欠となり、かなりの負担です。ここは自社で管理ではなく、外部の力を借りたほうがリスクは低そうです。
個人情報保護法では、保有する個人情報が5千件を超えない小規模事業者は適用外でしたが、今回は情報の数に関わらず従業員を雇用しているすべての企業(会計事務所)が対象になります。

罰則ですが、マイナンバーは、故意に不正行為を行ったら直ちに刑事罰の対象です。この場合、不正行為を行った従業員が対象になりますが、雇用している会計事務所に対しても罰金刑が科せられる両罰規定も存在します。一度漏えいしてしまうと取り返しのつかない情報だからこそ、重い刑罰が明確に示されています。
万一情報漏えいが発生した場合、大きく分けて「損害賠償」「刑事罰」「行政対応」のリスクが会計事務所として考えられます。
損害賠償請求については、管理していた会計事務所に対する使用者責任や監督責任の追及がそれに該当します。損害賠償がどの程度になるのかは、まだ事例がないので分かりませんが、所得に関する情報や健康に関する情報が紐づいている番号だけに、1件あたりはかなりの金額になると想像されます。

刑事罰という観点では、現状最高懲役刑として4年が設定されています。この4年という数字には意味があり、法令上、3年を超えると執行猶予がつけられません(刑法第25条)。つまり、あまりに悪質な事案であれば執行猶予のない実刑もあり得るということです。
一方、会計事務所には、懲役刑はありませんが、両罰規定によって重い罰金刑が科される可能性もあります。
行政対応に関しては、特定個人情報保護委員会という中立的な第三者委員会のようなものが設置され、勧告や指導が委員会を通じて行われます。ずさんな安全管理措置の事務所に対しては、事務所名を公表して是正を促すということも考えられなくもありません。会計事務所業界全体で管理に問題があれば、税理士会を通じて指導ということもあります。必要以上に恐れる必要はないものの、会計事務所にとってマイナンバーは想像以上に荷の重い問題になりそうです。

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Profile 宮口 貴志

税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。フリーライター及び会計事務所業界ウオッチャーとして活動。株式会社レックスアドバイザーズ ディレクター。

公認会計士・税理士・経理・財務の転職は
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