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2015.05.19

国税当局 あれも、これも情報収集 「財産債務調書」でココまで把握

ある程度のお金持ちになると、確定申告時に、自身の財産がどれだけあるかを国税当局に報告しなければならないことをご存知ですか?

前からある制度ですが、国税通則法の改正にともない、平成27年度税制改正では、その届け出書に当たる「財産債務明細書」が「財産債務調書」に変更されました。似たような名称の書類なのですが、用紙変更の意味はかなり重いです。

まず、これまでの「財産債務明細書」は、国税当局が税務調査する権限である「質問検査権」がおよびませんでしたが、新たな「財産債務調書」には質問検査権が認められます。つまり、財産債務調書を提出する義務のある人に対して国税当局は、財産及び債務に関する帳簿書類などを調べたり、必要な書類を提出させることができるのです。

では、この「財産債務調書」を提出しなければならないお金持ちの基準ですが、所得税の確定申告書を提出しなければならない人で、その年の各種所得金額の合計額が2千万円を超え、かつ「資産総額3億円以上」または「保有有価証券等1億円以上」を持っている人となりました。
改正前の「財産債務明細書」は、確定申告書を提出する人で、その年分の総所得金額が2千万円を超える場合に提出義務があったので、「財産債務調書」になり一面では少し要件が緩和された格好です。
とはいうものの、「財産債務明細書」の記載については、包括的で「記載金額などかなり大雑把だった」(税理士)とのことで、実際の提出に当たっては、「かなり記載に不備があるものも多かった」(課税当局)と言います。また、実際の提出に関しても、未提出者に対して注意は促すものの、提出者数は思ったほど成果に結びついていなかったようです。たとえば、平成25年分の提出が必要な人は約36万人いるものの、実際に提出した人は約16万人で、提出率は44%と、過半数を割っていました。

「財産債務調書」では、記載内容が見直され、「財産の種類」「数量」「金額」「財産の住所」「有価証券等の銘柄及び時価」などを記載する必要があります。かなり詳細内容が求められ、預金などの現金ならまだしも、有価証券等はかなり手間がかかる作業となります。上場企業株式なら、市場価格が時価になりますが、未上場株式などは毎年、株価を算定しなくてはなりません。

「財産債務明細書のときは、未提出でも重い罰則がなかったから、財産債務調書も提出忘れで済ませよう」なんて思ったら、今度はペナルティーがあります。
これはかなり重いです。もし、未提出だったり、提出していても修正申告に関わる財産などの記載がない場合は、過少申告加算税(10%・15%)または無申告加算税(15%・20%)の額が5%加算されます。
一方で、素直に提出していれば、過少申告加算税および無申告加算税は5%軽減されます。
つまり、〝アメとムチ″を使い分けです。

財産債務調書は平成28年1月1日以降から適用され、罰則等も同日時を持って適用されます。ということは来年の確定申告から提出する必要があるわけで、確定申告が必要な人はかなり大変な作業が求められます。もうこうなったらすべて税理士にお願いしたほうが楽なわけですが、未上場株の株価算定や外国債権の評価算定など、税理士はかなり業務の手間が増えます。ミスも増えそうです。

「わ~提出期限までに間に合わない」と、とりあえず提出してしまった場合ですが、これまた不思議、虚偽記載についての罰則規定は設けられていません。同様のお金持ちに義務付けられた「国外財産調書」では、虚偽記載および不提出に関して原則1年以下の懲役又は50万円以下の罰金(国外送金等調書法10①②)が課されます。ということは、「財産債務調書」においては、「とりあえず提出」しておけば、最悪のペナルティは回避できることになります。オススメできることではありませんが、来年の確定申告は〝とりあえず提出″が多いかもしれませんね。

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Profile 宮口 貴志

税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。フリーライター及び会計事務所業界ウオッチャーとして活動。株式会社レックスアドバイザーズ ディレクター。

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