企業別インタビュー

<注目インタビュー>事業会社へ転職しIPOを目指す会計士がキャリアを構築する上で気にかけたいこととは

<注目インタビュー>事業会社へ転職しIPOを目指す会計士がキャリアを構築する上で気にかけたいこととは

メドピア株式会社
執行役員 公認会計士 平林 利男氏

【経歴】
大学在学中に公認会計士第二次試験に合格。2003年大学卒業と同時に有限責任監査法人トーマツ(以下、トーマツ)に入所し国内監査業務を経験。2006年に株式会社エニグモ(以下、エニグモ)に入社し管理部門の経験を経て2011年にグローウィン・パートナーズ株式会社(グローヴィン・パートナーズ)に転職。M&A業務などを経験し、2013年5月に管理部長としてメドピア株式会社に参画。入社後はIPOとIPO後の体制づくりに尽力され、2018年5月からは同社の執行役員に就任している。

医師、薬剤師などの医療従事者をサポートしながら、そのネットワークとノウハウを活かして個人向けのヘルスケアをサポートしているメドピア株式会社(東京都中央区、代表取締役社長 CEO=石見 陽氏)。2013年から同社に参画し、IPOとIPO後のコーポレート部門の体制づくりに尽力する現執行役員で公認会計士の平林利夫氏に、会計士としてのキャリア構築について伺った。

監査法人から事業会社、そしてコンサルティングファームへ

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・・・会計士を目指したきっかけを教えてください。

高校までは野球の部活に熱中していたのですが、将来を考えたときに、野球の次に自分がのめり込めるものを作りたいと思いました。今度は頭を使う何かをやってみようと、大学受験と並行して資格の本などを見て検討している中で、医者・会計士・弁護士の三大国家資格の存在を知りました。自分は文系だったので医者は難しい、弁護士は在学中に合格するのが難しい、でも会計士なら・・・と消去法で選びました。

大学は指定校推薦を受けて受験をしなかったこともあり、さっそく簿記の勉強を始め、高校3年の2月には3級、大学1年の6月に2級に合格。消去法で選んだ会計士への道でしたが、気づけば大学入学と同時にダブルスクールで勉強をするほどのめりこんでいました。

・・・会計士への道は平林さんに合っていたんですね。

そうですね。そうでなければ簿記も受かっていなかったと思いますし、会計士の勉強もついていけなかったと思います。大学3年で短答式に、翌年には論文の試験も無事合格できました。10月の合格発表を経て、そのままトーマツに就職。他の監査法人の内定も出ていましたが、トーマツが一番自身の成長のために進んで多くのことに挑めるイメージだったのでトーマツを選びました。監査法人時代は大変でしたが楽しかったですね。

・・・大学時代に会計士試験に合格し、入社後も順調に仕事をこなしていったのですね。その後、短い期間でエニグモへの転職を決断されたようですが、事業会社への転職は何がきっかけだったのでしょうか。

そうですね。公認会計士の三次試験に合格した後の繁忙期が終わってすぐにトーマツを辞めました。トーマツでの4年間は、クライアントがいろいろ変わっていく中で、先輩が抜けたクライアントにアサインされることも多く、私の年次では通常は携われない業務も数多く経験ができたと思います。今後どうしていこうかと漠然と考えていた時にちょうどエニグモから話を頂いたので、チャレンジしてみようと決意しました。転職活動をしたわけではないので、エニグモのおかげで転職を真剣に考えたというのが正しいかもしれません。当時J-SOXバブルの直前で、もし失敗しても戻ってこられるという安心感も多少はあり、トーマツで次のアサインが決まる会議の直前だったので、タイミング的にもちょうどよかったのだと思います。

・・・エニグモではどんな仕事をされていましたか。

会計の仕事はほとんどせず、人事と総務のコーポレート部門全般の業務が多かったです。ベンチャー企業はそもそも経理業務のボリュームがない場合が多いですし、いわば何でも屋ですね。例えばコピー機の紙が急にきれて家電量販店に買いに行ったり、会社移転の指揮をとったりといった業務もありました。エニグモも同様に、コーポレート専属の人は私以外いませんでしたので、小さい会社のコーポレートを自分で回す経験ができました。その後会社の規模も大きくなり少しずつ体制も変わって、最終的にはコーポレート部門は4人体制となっていました。

・・・会計士のキャリアとしては、監査法人の次にコンサルティングファーム、事業会社へと順に転職するケースが多いのですが、平林さんは事業会社のご経験後にコンサルティングファームに転職されていますよね。

もともとエニグモに行ったときは、MBAホルダーでファイナンス系の知識がある上司がいたので、実務を通してそこも学べていました。ただ、IPO前のベンチャー企業で経験できるファイナンス実務にも限界があり、今後のキャリアを考えたときに、このままではまずいなと思っていました。
当時30歳になるタイミングが、未経験の領域を自分で埋めにいく最後のチャンスかなと思い、M&Aコンサルティングファームへの転職を決意しました。

・・・「未経験の領域を自分で埋める」いい言葉ですね。

敢えて挑戦するかどうかは、その人のタイプにもよると思います。未経験の領域でも、他にやってくれる人がいるのであれば、それはそれでいいと思います。得意分野を追及しスペシャリストを目指す人もいるとは思いますが、私はコンサルティングファームで未経験の領域を学ぼうと思いました。

・・・グローウィン・パートナーズはプロフェッショナルファームとして、外部からクライアントの成長を支援する立場なりますが、事業会社と仕事の面白さには違いがありましたか。

そうですね。クライアント視点を意識していたので、考えるべき視点はあまり変わらなかったです。ただ、コンサルタントとして私が作成したレポートで実際に「お金をいただく」大変さと、やりがいを強く感じたことを覚えています。また、専門家としてより深い知識が必要になったことにもやりがいを感じました。

メドピア株式会社へ IPOの責任者に就任

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・・・そして今のメドピアに転職されていますよね。

グローウィン・パートナーズに2年間在籍し、多くのプロジェクトに携わることができ、M&Aに関して一通りの経験ができたと感じていました。市場としてはこれからIPOの盛り上がりが予想される中で、次はどうしていこうかという思いがありました。

当時32歳でしたが自分が一番バリューを発揮できるのはどこだろうと考えたときに、事業会社で、エニグモで経験していないことをやりたいと思いました。IPOの部門で自分が責任者となってやってみたいなと。3社ほど検討しましたが、もともと医療系に興味があったこともあり、やりたい事とやれる事のすべてがそろっていたメドピアに入社しました。

・・・転職先を絞り込むまでには他にどういった点を重視しましたか。

社長と直接話して、トップが何を考えているのかを自分なりに理解することを重視しました。それとともに、メドピアのことを知っている人に会い、周囲の人がどのようにとらえているのかを聞きました。

・・・会社の財務状況などは気にされなかったのでしょうか。

財務の状況はほぼ気にしなかったですね。それよりも、社長や事業そのものの将来性を重視しました。財務状況を見たとしてもそれは結局、過去の数字ですよね。そこを変えていくのが自分の仕事だと思っていたので、過去の数字は気にしませんでした。むしろ将来的にどう会社が成長していきそうなのか、そこで挑戦しワクワクできるかどうかを重視しました。知らない業界に入っていくので、ある程度覚悟を決めて入社しました。

・・・業界のこだわりはありましたか?

それはありました。特に、自分が胸を張って説明できるセクターなのかどうかは気にしました。コーポレート系の仕事は、自分が事業をするというよりはそれをサポートしていく立場なので、そこに意義や価値観を見い出せるかどうかは重要視しました。医療系以外ではアグリビジネスには興味がありましたね。

・・・メドピアに入社されたときの会社の状況はどうでしたか。

入社したのが2013年5月、マザーズ上場の中間審査が来月始まるというタイミングで、まさにこれからが本当の戦い・・・という状況でした。結局資料の作り直しなどもあり、中間審査は9月になりましたが、やることやミッションが非常に明確で、スケジュールも決まっていたので入社後の戸惑いもありませんでした。中間審査後も順調に進められ、入社前から設定されていた上場予定日を1度も変更することもなくIPOを達成できました。これはかなり珍しいことですが、様々な方のサポートを受け、最短で上場することができました。これは、私が入社する前からいた上場企業経験があるメンバーが、審査関係の書類を整えていたため、準備が非常にスムーズだった点も成功要因の一つだと思います。

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・・・上場した瞬間はどうでしたか。

上場した瞬間というよりもyahooファイナンスのサイト上に社名が出た瞬間は嬉しかったですね。日頃見ていたサイトに自社の名前が掲載された喜びは図り知れません。

・・・上場後はさらに体制づくりが必要だったと思いますがその辺りはどうですか?

コーポレート部門は最低限の人員で運営してきたので落ち着くということはなかったと思います。昨年9月以降にメンバーを増やしはじめ、人事や法務の担当者も増えてきて、やっと今までと違うステージに入ってきたという状況です。

・・・上場するまでと上場した後で、仕事は大きく変わりましたか。

IPOの時はその実現にフォーカスしていたので、そこからはだいぶ変わりますね。コーポレートアクションもできることが増えていくのでそういうところは変わっていくと思いますね。

・・・IPOをやりたいという会計士の方の中には、IPO後の業務イメージができないという方が少なくありません。

まずIPOを担当することで、会社の歴史や会社の強みを人に語れる様にはなります。ただしIPOの手続きそのものは、基本的に作業でしかありません。IPOをやる、IPOの準備に取り組むということを目的として転職すると、IPO後の仕事のイメージが湧かないのは必然だと思います。IPOは一定の軌道に乗った会社を成長させる、一つの手段でしかないので、IPOの手続きを責任者としてやりたいから事業会社に、という転職はあまり本質的なキャリア形成に繋がらないと思っています。

IPOを経験することよりも重要だと思うのは、会社が成長していく、ステージが変わっていくところに携われることです。数字を世の中に出していく、お会いしたことがない人たちが自分達の会社の株式を売買していく、対する利害関係者の数が変わる、その変化は大きいと思います。

・・・転職を希望する会計士の方からは、成長したいというキーワードがよく聞かれますが、会計士としての成長という意味ではどうでしょうか。

会計士自体は単なる資格でしかありません。会計士だから話を聞いてもらえたり、信頼してもらえたり、そういうことはありますが、事業会社だと基本的に会計士の仕事はしないので“会計の知識と監査の経験がある人”という存在になります。いろいろなクライアントの会計処理や業務プロセスを見てきた経験があり、売上や取引の内容、契約形態などの情報をリンクさせて物事を考える経験を積んできたというだけなので、会計士という資格自体にこだわりがあると、事業会社でやっていくのは辛いと思います。

事業会社で会計士資格は武器になるか

・・・会計士は武器にはなりますか。

一長一短ですね。監査業務に関係するところでは当然プラスになります。一方で、「会計士の資格を持っている事業責任者です」と言って表に出ていくと、マイナスに受け取られる可能性もあります。会計士には事業がわからないのではないかというイメージもあるので。なので、事業会社寄りで仕事をしていくということは、会計士という肩書きを徐々に薄めていくという感じかもしれません。

実際、ベンチャー企業にいると、会計士のステータスはそんなに重要ではないです。特にこれから管理部門をつくるという段階の会社では、資格よりも自分が会社のために何ができるか、という方が重要です。

例えばCFOの場合は会計士と名乗るけど、副社長になったら会計士と名乗らなくなるケースがあったり、CFOは会計士が多いがCOOではその資格を持つものはほとんどいなかったりもする。この領域が強いというと逆にその他の領域が弱いと見られる。同様に、会計士資格の強みを出すことがいい場合もあるし邪魔をすることもある。だから自分が何をやりたいかによって、それは決まってくると思います。

ベンチャー企業にいると、会計士のステータスはそんなに重要じゃないんですよ。特にこれから管理部門をつくるという段階の会社では、資格云々よりも何ができるか、という方が重要です。

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・・・今後の御社の発展についてはどうお考えでしょうか。

当社もステージがどんどん変わっていく中で、組織としてのコントロールをしていかなければいけません。今まで性善説でやっていたものを性弱説でやっていかなければいけないことも多いと思っています。例えば、制度を整え、重大なミスが起こらないように未然に防がないといけません。ここは会社としてチャレンジをし、長く続く会社、成長し続けていく会社にしていきたいと思っています。会社にも寿命があると思うのですが、私はメドピアを、100年続く会社にしたいと本気で思っています、そういうことができるから自分の人生をかける価値があると思っています。

・・・最近では監査法人に閉塞感を覚えて事業会社への転職を考える方も少なくありません。そうした方に向けてメッセージをお願いします。

どこにいても組織の不満を言っている人はダメだと思います。楽しめていなかったらパフォーマンスは出ないと思うので、その瞬間を自分なりに楽しめるかどうかは重要だと思っています。事業会社での活躍を目指すならば、会計士としてどうこうよりも自分が何をできるか、何をしたいかをイメージするとチャレンジを楽しめると思います。

メドピア株式会社
https://medpeer.co.jp/
代表取締役社長 CEO 石見 陽(医師・医学博士)

●事業内容
医師専用コミュニティサイト「MedPeer」の運営、その他関連事業

- 医師向け臨床およびキャリア支援事業
- 企業向けマーケティング支援および広告・リサーチ事業
- 一般向け健康増進・予防支援事業

●所在地
〒104-0061 東京都中央区銀座6-18-2 野村不動産銀座ビル11階

●最寄り駅
東京メトロ日比谷線・都営地下鉄浅草線「東銀座」駅(6番出口 徒歩3分)
東京メトロ日比谷線・丸ノ内線・銀座線「銀座」駅(A5出口 徒歩7分)
都営大江戸線「築地市場」駅(A3出口 徒歩3分)

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