企業別インタビュー
地方企業を支えるという新たな公認会計士の働き方 ── 監査業界の未来を照らす監査法人Innovationの挑戦
更新日:2025.12.15
地方の「監査難民」と、都市部に集中しがちな公認会計士のキャリア。この構造的課題に挑むのが、2025年に設立された監査法人Innovationです。独自の制度で監査業界に革新を起こそうとするその挑戦について、代表の橋本剛会計士と副代表の岩田恭輔会計士に話を聞きました。
2025年に新たに誕生した監査法人Innovation。
長年大手監査法人で企業支援してきたメンバー、さらには大手から中堅監査法人へ飛び出し、経営陣としてIPO部門を日本全国へ展開してきたメンバーが、地方経済の課題や公認会計士業界の構造的な問題に真正面から向き合うために立ち上げた、新たな法人です。
「監査難民」という言葉があります。
その言葉が象徴するように、地方では監査法人の数も質も十分とは言えず、上場を目指す企業が監査を受けられないという事態すら起きています。
さらに、会計士のキャリアも都市部に偏りがちで、地方での活躍の場は限られています。
こうした状況に対して、Innovationは「地方に良質な監査インフラを届ける」ことをミッションに掲げ、全国の会計士と連携する新しい仕組みを構築しました。
監査法人としての役割を再定義し、業界にイノベーションを起こそうとしているのです。
このインタビューでは、創業メンバーである代表の橋本剛公認会計士と副代表の岩田恭輔公認会計士に、法人設立の背景から今後の展望まで話を伺いました。
地方の「監査難民」を救いたい ── 監査法人設立の真意
左から代表の橋本剛公認会計士と副代表の岩田恭輔公認会計士
まずは、監査法人Innovationを新たに立ち上げた背景についてお伺いしたいです。このタイミングで設立したのはなぜですか?
橋本剛(以下、橋本):話し始めると長くなってしまうのですが…
岩田恭輔(以下、岩田):これだけでインタビュー記事1本くらいになってしまう(笑)。
橋本:なので、シンプルにお話しします。まずは「イノベーションを起こしたい」という思いが強くありました。監査法人Innovationという名前にも、その思いを込めています。
「イノベーションを起こす」というのは、具体的にはどういったことを指しているのでしょうか?
橋本:経済環境やマーケットの状況、そして公認会計士業界の置かれている環境を見て、いまこそ変化が必要だと感じています。特に、近年では大手監査法人が東京一極集中体制になっている一方で、例えば東京プロマーケットが活況になってきていて、地方からも上場を目指す企業が増えている。そうした企業が監査を受けたくても、受けられないという現状があります。いわゆる「監査難民」ですね。
「監査難民」ですか。
橋本:東京では監査法人のプレーヤーがそろってきているのであまり聞かなくなりましたが、地方ではまだまだ深刻です。大手監査法人は報酬が低い案件は基本的に受けませんし、準大手も同様。そうなると、中堅・中小の監査法人しか選択肢がなくなってしまいます。
中堅・中小の監査法人も体制に課題があったりするのでしょうか?
橋本:そうですね…もちろんしっかりした法人もありますが、品質面で不安が残るところも少なくありません。だからこそ、地方に良質な監査インフラを届けることが必要だと思っています。
その課題を解決するために、Innovationではどのような仕組みを作られたのでしょうか?
橋本:「認定ビジネスパートナー制度」という仕組みを導入しました。日本全国の優秀な会計士と連携して、監査サービスを提供する体制です。地方に住む会計士が、その地域の企業を支援できるようにすることで、監査のインフラを広げていきたいと考えています。
地方の企業を、地方の会計士が支える。まさに地域密着型の監査ですね。
橋本:監査法人が地方に根を張り、企業の成長を支える存在になること。それが、日本経済全体の底上げにつながると信じています。
公認会計士の新たなキャリアの形 ── 「認定ビジネスパートナー制度」
「認定ビジネスパートナー制度」について、特長をもう少し詳しく教えていただけますか?
橋本:まず、しっかりと自身で独立していてIPOの知識にも秀でた会計士を活用するという特長があります。会計士は全国に散らばっていますので、地方に住んでいる会計士がその地域の企業を支援できるようにすることで、監査インフラを広げていける仕組みです。
非常勤の方が中心になると、品質面というか、クオリティにばらつきが出ませんか?
橋本:これは岩田から説明しましょうか。
岩田:品質、クオリティは私が担っている領域です。弊社では、非常勤だから品質が低い、常勤だから高いという考え方はしません。雇用形態によるのではなく、個人の能力や知識・経験と、弊社の品質管理システムへしっかりコミットできる人材かどうかが重要だと考えています。
Innovationが望む品質を担保できるように、どのような仕組みになっているのでしょうか?
岩田:まず、認定ビジネスパートナーである非常勤の方にも、常勤職員と同様の評価制度を適用しています。単に「空いている時間に手伝ってもらう」というスタンスではない。我々の品質ポリシーにしっかりとコミットしていただく形です。面談やフィードバックの機会も多く設け、日常的なコミュニケーションを通じて品質意識を高めています。
非常勤というより、柔軟な働き方をする常勤に近いイメージですね。
岩田:その通りです。さらに、監査手続きについても標準化を進めています。共通の電子調書システムを導入し、調書のフォーマットも東京本部で整備することにより、全国どこでも同じ品質で監査を行えるようにしています。
監査で重要になる、情報セキュリティ面はどうやって遵守されていますか。
岩田:まず、PCは弊社から配布したものを使用していただき、データレス化したクラウド環境でのみ業務を行うため、リアルタイムでネットワーク監視ができるようにしています。物理的な資料があったとしても、全て東京本部に集約の上、電子化して管理しています。各会計士が監査業務に集中できるよう、事務作業は極力本部で担う体制です。
非常勤でも、しっかりとした仕組みのなかで働ける環境が整っているのですね。
岩田:Innovationには「攻め」のイメージがあるかもしれませんが、私は「守り」を担う立場として、品質を守る仕組みづくりに力を入れています。
橋本:監査業界を離れた会計士の方が、「もう一度やってみたい」と思える環境を提供できる制度でもあると考えています。実際、監査が嫌いで離れたという人は少なく、他のことにチャレンジしたい、ステップアップしたいという前向きな理由で離れた方が多いですからね。
会計士のキャリアは多様化していて、チャレンジのために監査法人を出る会計士は多いですが、監査に対して前向きな気持ちを持っている方も少なくないとお考えということですか?
橋本:正社員としての働き方や大手監査法人での業務にストレスを感じていたとしても、柔軟な働き方ができるなら監査を続けたい。そういった声を多くいただいています。弊社の制度では、やりたい範囲だけで監査に関わることが可能です。そうした方々にとって新しいキャリアの選択肢になると思っています。
仕組みがあることで、非常勤の会計士の方々が「ここなら本気で働きたい」と思ってくださる。実際に、他の監査法人で非常勤として働いていた方が、「Innovationの仕組みなら本気でやりたい」と言ってくださるケースも増えています。
監査業界に対する「セカンドキャリア」「サードキャリア」の場としても機能しているのですね。
橋本:会計士のキャリアのなかで、いつでも選択肢としてInnovationがある ── そんな世界観をつくりたいと思っています。
監査法人Innovationの求人
地方企業の成長を促す、監査を超えた伴走型支援
Innovationの取り組みは、地方企業への支援という点でも非常に特長的です。
橋本:まず、立ち上げの背景には地方への強い思いがあります。私はこれまで、前身の監査法人から日本全国を回り、地方の企業や会計士の方々と接してきました。そのなかで課題として感じたのは、地方経済の絶対的な「人財不足」です。また企業によっては、「現状維持でいい」という空気が根強くあることも課題だと感じています。これが、地方経済の停滞につながっている。決して悪いことだけではないとも思いますが。
現状維持では、発展は望めませんよね。
橋本:若者が東京に出ていくのも、地方に魅力的な企業や成長の機会が少ないからです。でも、実際には地方にも素晴らしい企業がたくさんあります。技術力もサービスも高いのに、全国的に知られていない、評価されていない。そうした企業を支援したいという思いが、私の原動力になっています。
地方創生という言葉をまさに実践されていますね。
橋本:私は日本が大好きですし、誇りに思っています。自分の子どもや孫の世代に「日本に生まれてよかった」と思ってもらえるような国にしたい。そのためには地方経済が元気にならないといけないと考えて、実践しています。
具体的に監査法人として、地方企業にどのような支援をされているのでしょうか?
橋本:監査を提供することはもちろん、そもそも監査を必要とするレベルまで企業を押し上げることも重要です。地方の企業は経営や組織づくりの知識が不足しているケースが多く、成長のきっかけすらつかめていないこともあります。
監査だけでなく、成長の支援も行うということですか?
橋本:認定ビジネスパートナー制度の狙いは、監査支援だけではないんです。ただし、監査法人としての独立性や倫理の観点から、直接的なコンサル業務は慎重に扱う必要があります。監査制度の枠組みのなかで、地域の企業に気づきを与え、成長のきっかけをつくることは可能なはずです。また当該制度では、都心在住の地方出身会計士や地方支援に興味のある会計士もターゲットになります。優秀な会計士が地方回帰することも、人財不足解消のための大きな目的の一つです。
最近では、事業承継のタイミングで企業の将来を考える経営者も増えていると聞きます。
橋本:二代目、三代目の経営者が「この会社をどうすればいいんだろう?」と考えるようになってきています。それに対して、例えば東京プロマーケットのような選択肢を提示することで、企業の未来を考えるきっかけになるでしょう。実際、地方銀行やVCの方々とも話す機会が増えていて、意識の変化を感じています。
地方企業の成長を支えれば、日本経済全体の底上げにつながっていきますよね。
橋本:監査だけを提供するのではなく、企業が監査を必要とするレベルに成長するための支援も含める。地方経済に貢献していける監査法人を目指しています。それが、私たちがこの法人を立ち上げた理由の一つでもありますから。
地方と監査業界に真の意味でのイノベーションをもたらしたい
地方企業や会計士業界に対して強い思いを持って取り組まれていることを聞かせていただきました。今後の展開についてはどのようにお考えですか。
橋本:大きな方向性は変わりません。私たちは、日本全国に良質な監査インフラを届けることを目的に、この法人を立ち上げました。そのための仕組みが認定ビジネスパートナー制度であり、地方の会計士が地元企業を支援するという座組みを広げたいと思っています。
支援対象はIPO準備会社だけではないそうですね。今後はどう変化していくのでしょうか?
橋本:いまは本則市場や東京プロマーケットを中心に、全国で上場を目指す企業を支援することが多いです。しかし、将来的には上場企業や法定監査を含め、よりバランスの取れたポートフォリオにしていきたいと考えています。特に、東京プロマーケットは地方進出のための“入り口”として非常に有効な手段です。活用することで、地方での実績を積み重ねられる。地方で企業支援の実績を出していけば、自然と声がかかるようになるでしょう。あくまで弊社は、事業ビジョンとして『地方に良質な監査インフラを届ける』ことを掲げています。
地方企業の支援が、監査法人自体の土台になっていくわけですか。
橋本:実際、いまも6大都市だけではなく北海道や九州、中四国などの各地域から相談が来るようになっています。そうした流れで、地域ごとに支援のモデルをつくっていければ、全国展開も現実的になっていくと思っています。
監査法人としての枠を超えた支援の可能性を感じます。
橋本:繰り返しになりますが、監査法人としての独立性や倫理は守らなければなりません。その上で、例えばグループ会社としてコンサルティング機能を持つことはあり得ると思っています。実際、認定ビジネスパートナーのなかにはコンサルティングに強い方もいらっしゃいますし、そうした方々と新しい座組みをつくっていく可能性も十分にあります。
岩田:私も、監査法人としては監査が主軸であるべきだと思っています。ただ、認定ビジネスパートナーの方が、弊社のクライアントやその関係者ではないなどの独立性に抵触しないことを前提に、監査以外の時間でその他の地方企業にコンサルティング的な支援もすることはむしろ歓迎すべきでしょう。それが個人の能力開発、地方の活性化につながるのであれば、私たちの理念にも合致します。
監査法人としての役割を守りながら、地方経済に貢献する。バランスが重要なのですね。
橋本:もう一つ、私たちが目指しているのは会計士業界における本当の意味でのイノベーションです。認定ビジネスパートナー制度を通じて、監査業界に新しい働き方とキャリアの選択肢を提供する。これが広がれば、「Innovationがあったから、会計士が監査業界に戻ってきた」と言ってもらえるような未来がつくれると信じています。
業界にイノベーションを起こす存在になっていくと。
橋本:そう言っていただけるよう、これからも仕組みを磨き、現場で実績を積み重ねていきたいと思っています。
監査法人として、新たな道を切り開いていこうとする監査法人Innovation。
いままでにない働き方をしたい、地方へ貢献をしたいと考えている公認会計士にとって、ひとつの選択肢となっていくことでしょう。
監査法人Innovation
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