企業別インタビュー

成長する九州 キーパーソンに聞く①│異例のスピードでIPOを達成したFusic Uターン転職のCFOが描く福岡の未来

成長する九州 キーパーソンに聞く①│異例のスピードでIPOを達成したFusic Uターン転職のCFOが描く福岡の未来

更新日:2025.04.30

福岡の株式会社FusicでCFOとして活躍している公認会計士の小田晃司氏。CFOに至るキャリア、FusicのIPOのスピード達成、Uターン転職の醍醐味や地方ベンチャーが抱える課題、地域への貢献の思いなどを語ってもらいました。

2023年にIPOを達成した福岡県に本社を置く5社のなかで、異例のスピードで上場を果たして大きな注目を集めたのが株式会社Fusicです。
公認会計士の小田晃司氏は、FusicをIPO達成に導いたキーパーソン。
会計士試験合格後に税理士法人でキャリアをスタート。政府系ファンドなどで経験を積み、UターンでFusicにジョインしています。

自らCFOへの道を切り開いてきた小田氏に、いままでのキャリアから、IPOのスピード達成、Uターンを選んだ理由、地方ベンチャーが直面する課題、地域経済に貢献しようとする熱き思いについて語っていただきました。

税理士法人からスタートしたキャリア。ハイブリッドな視座を手に入れる

まずは小田さんのご経歴についてお伺いします。公認会計士試験合格後のキャリアの選択は?

小田:はい。私は2012年に公認会計士試験に合格しました。
最初のキャリアとして選んだのがPwC税理士法人です。

会計士としては少し珍しい選択かもしれません。
多くの方は試験合格後、監査法人に進みますが、あえて税務の世界に飛び込みました。

確かにユニークな選択ですね。背景にはどのような考えがあったのでしょうか?

小田:そもそも私が会計士を志した理由は、「監査をやりたい」というよりも、「会計士はビジネスライセンスの最高峰」というイメージを持っていたからです。
特定の分野でキャリアを深掘りしていくというよりは、ビジネスの選択肢を手に入れたいという気持ちが強かったんです。

当時は漠然とベンチャー企業のCFOに憧れている程度でしたが、ビジネスの現場で活躍する会計士の姿に魅力を感じていました。
そのため、監査を通じて企業を見るというよりも、より実務的に経営と関わるスキルを身につけたいという思いがありました。

はじめから“ビジネス寄り”のキャリアを意識されていたんですね。

小田:はい。そう考えた時、複数の先輩会計士から「税金は絶対に理解しておいた方がいい」とアドバイスされたことが大きかったです。
会計の知識はもちろん重要ですが、税務に関しては会計士の中でも手薄になりがちな分野です。
会計と税務の両方を理解しておくことで、経営判断の場面で非常に強みになると考えました。

たとえば、ある取引を見た時に「この場合は会計上はこう処理すべき、でも税務上はこう扱われる」と、自然と2つの視点で仕分けが思い浮かぶ。
“ハイブリッドな視座”を持つことは、将来的に経営に関わる上で確実に財産になると感じたんです。

経営に近い立場になるほど、その視点は重要ですね。

小田:当時のPwC税理士法人には監査法人出身の方も多くいらっしゃって、将来の独立や起業を見据えた時に「税務の知識がないとやっていけないよ」と話す方もいました。
私は監査に対して強いこだわりがあったわけではなかったので、「それならば最初から税務の世界に身を置くのもアリだな」と考えたんです。

PwC税理士法人ではどのような業務を担当されましたか?

小田:金融部門に配属されました。自分で希望したというより、たまたまのタイミングと運によるものでしたが、結果的には非常に良い経験でした。
ここで金融機関を中心とした税務に携わり、専門性を磨くことができました。

税務に携わるという当初の目的を達成されたのですね。その後は?

小田:1年経ったところで、株式会社日本政策投資銀行に出向する機会をいただきました。
これが自分のキャリアの大きなターニングポイントになったと思います。
税理士法人で専門家としてのスキルを磨きましたが、投資銀行に出向し、銀行員の視野の広さ、より多くの業界に対する見識に驚かされました。
専門性だけでなく、ビジネス全般に対する理解度の差を痛感しました。
投資の観点から多くの業界に対する知識を持つ人々と接することで、世界の見え方が変わりました。

憧れだったベンチャー企業のCFOに踏み出した「攻めのUターン」

PwC税理士法人・日本政策投資銀行への出向を経て、どのようなキャリアを歩まれたのでしょうか?

小田:出向から戻って半年ほどして、第一生命ホールディングス株式会社に転職しました。
入社後は投資部門ではなく税務課への配属となりました。
実務では勉強になる機会が多かったのですが、当時は「さらに投資の実務を深く経験したい」という気持ちが強く、ギャップを感じたのが正直なところです。
面接では投資志向を強く伝えていたこともあり、思い描いていたキャリアとは異なる方向に進んでしまったと感じました。
結果的に約2年弱で同社を円満退社し、次のステップへと進むことにしました。

その後はどちらに?

小田:政府系ファンドの株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)に転職しました。
投資後の企業を対象にしたファンドの実務の中でも管理業務、モニタリングや現地視察、収益のチェックといった業務を担当しました。

この仕事のなかで、九州エリアの案件に関わる機会に恵まれたことがいまのキャリアに直結しています。
私自身が長崎出身ということもあり、佐賀や熊本など地元の企業と関わる機会が多く、「地方企業を元気にしたい」という思いが自然と芽生えていきました。

ご出身の九州との再接点があったのですね。

小田:ちょうどその頃、コロナ禍で出張がすべてなくなり、完全にリモート勤務に移行しました。
東京にいながら一日中自宅で仕事をするという生活が続き、「果たして東京にいる意味はあるのか?」と改めて考えるようになりました。

当時34歳だったのですが、「ベンチャーのCFOとして挑戦するならいまがラストチャンスかもしれない」と直感的に思いました。
そこで「九州にIPOを目指している企業がないか?」と自らリサーチを始め、出会ったのが株式会社Fusicでした。

Fusicとの出会いにはどのような背景があったのですか?

小田:Fusicの創業者で代表取締役社長の納富と取締役副社長の浜崎と話したなかで、非常に印象に残ったのが「なぜIPOを目指すのか」という問いに対する答えでした。
多くの企業が資金調達や企業成長を目的に上場を目指すなか、Fusicは“九州の地域経済への貢献”という観点を強く持っていたんです。

「九州はGDPで日本全体の1割を担っているのに、上場企業の数は全国の約3%しかない」といわれます。
このギャップが地方の人材流出の原因であり、「優秀な若者が働きたいと思えるような上場企業を九州に増やしたい」という思いが、FusicのIPOの原動力になっていると。

とても強い地域志向ですね。

小田:はい。「IPOを通じて、九州に選択肢と希望を作る」という考え方に、私自身強く共感しました。
私のキャリアの出発点でもある「ビジネスの現場で活躍する会計士になりたい」という思いと重なった部分も大きかったです。

それがきっかけで、FusicでのCFOという役割に挑戦しようと決めました。
まさに自分にとっても“攻めのUターン”という表現がしっくりくる転職でしたね。

異例の速さでFusicのIPOを達成

REVICでの仕事のなかで、地元・九州に対する思いも芽生えてきたとのことですが、Uターンの決断について詳しく教えてください。

小田:REVICで九州の企業をいくつか担当していたことがきっかけで、地元への思いが強くなっていきました。
佐賀や熊本の現地企業と関わる中で、「これほどいいものをつくっているのに知られていない」「さらに伸びるポテンシャルがあるのに支援が足りていない」といった、地方ならではの課題を肌で感じたんです。

ちょうどこの頃にコロナ禍に入り、出張もなくなり完全リモート勤務になったことが、自分のキャリアを見直す大きな転機になりました。

まさに働き方や生き方を見直すきっかけになったわけですね。

小田:そうですね。昔から憧れていた「ベンチャーCFO」というキャリア像がずっと頭の片隅にあって、それを九州という地で、実際に自分の手で形にできるのではないかと考え、Fusicへのジョインを決断しました。

CFOとしては、どういった役割を担われていたのでしょうか?

小田:いわゆる財務・経理に加えて、法務、経営企画、IR、総務、情報システムやセキュリティなど、管理部門全体を管掌しています。
いわゆるベンチャーにおけるCFOの役割ですね。
予算策定から体制整備まで、IPOに向けて必要な土台作りをゼロからやっていく仕事でした。

そして、上場は2023年3月。日本最速レベルだったとか?

小田:はい。上場の意思決定をしたのが2020年の春で、ちょうど3年後にIPOを達成しています。
証券会社の方や監査法人のパートナーからも「これはおそらく国内最速レベルですよ」といわれました。

私自身IPO経験はゼロだったので、特別なスキルがあったわけではないんですよね。
ただ、わからないなりにとにかく愚直に準備を進めていきました。

3年でのIPO実現を達成した要因は何が大きかったと思われますか?

小田:一番大きかったのは、やはり仲間の存在です。
外部からのキーパーソンも良いタイミングで入ってきてくれましたし、当時顧問として加わってくださった加藤広晃さん(IPO協会 轟 一般社団法人 代表理事)という元会計士の方の存在も大きかったです。
優先順位の立て方、審査対応のポイントなど、経験者の視点から多くを学ばせてもらいました。

福岡のベンチャー企業が直面する課題

Fusicを含め、福岡のベンチャー企業の採用事情についてもお伺いできますか?

小田:地方のベンチャーでは、CFOやCXOレイヤーの人材がとにかく足りていないというのが現実です。
首都圏だと、会計士出身のCFOを見かけますよね。
福岡には本当に数えるほどしかいない。

実際、会計士のCFOは私ともう1社ぐらいにしかいないんです。
それ以外の方々は、営業やエンジニアなど、もともとはフロントにいた人が管理責任者を任されているケースが多いですね。

人材の流動性が課題なんですね。

小田:特に、会計士や税理士などプロフェッショナルファームにいる方が実務側にさらに降りてきてほしいという思いは強く持っています。
プロフェッショナル人材が実務を経験して再び監査法人や税理士法人に戻るようなキャリアの循環ができれば、双方にとって大きなメリットになるはずです。

九州にありながら首都圏の企業案件を手がけるFusicの強みとは?

あらためてFusicという会社の強みについて教えていただけますか?

小田:一言でいうと「技術の幅広さ」だと思っています。
AI、クラウド、IoT、自社プロダクトまで、幅広い技術領域を社内でカバーしているのがFusicのユニークな点です。

多くのIT企業はプロダクト特化や特定領域の専門性で勝負しているのですが、Fusicは「テクノロジーに関するあらゆるニーズにワンストップで応えられる総合力」がある。
この点が評価されて、他社からの開発依頼や協業も多いんです。

クライアントは九州だけでなく首都圏をはじめ全国に広がっているのですね。

小田:売上の半分近くは首都圏の企業なんです。
AWSやSORACOMといった大手クラウド・IoTプラットフォーム企業のパートナーでもあり、紹介案件が多いのも特徴です。
地方にいながら、全国レベルの仕事をしている、そんな企業です。

株式会社Fusicの求人

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九州から未来のCXO人材を!

小田さんが取り組まれているIPO勉強会のようなコミュニティ活動についても教えてください。

小田:福岡に来て意外だったのは、「地方は人とのつながりが強い」というイメージとは逆だったことです。
東京のほうがコミュニティが活発だなという実感があります。
福岡では、会社や業界の垣根を越えたつながりがまだまだ希薄で、そこに課題を感じました。

まずは上場企業やIPO準備企業の勉強会を立ち上げました。
発足当初は6〜7社、15人くらいの規模でしたが、いまでは15社以上、30人超の規模になってきています。

どのようなテーマで活動されているんですか?

小田:管理部門がテーマで、経理・法務・IRなど、各セクターごとの分科会を立てて、上場後のリアルな悩みやナレッジを共有し合っています。
ベンチャー企業の管理部門って少人数体制が多く、孤独を感じやすい部署でもあるので、「自分だけじゃなかった」と思える場があることもとても重要なんですよね。

将来的に、そこからの育成の機能も期待されますね。

小田:そうですね。明確に人材育成を目的にしているわけではありませんが、結果的に育成の流れが生まれると良いと思っています。
ゆくゆくは九州からCXO人材がどんどん育って、また別の地域を育てに行くような“好循環”を作れたら、真の意味での地方創生になるのではないかと思います。

株式会社Fusic

●沿革
2003年 株式会社Fusicを設立

2023年 東京証券取引所グロース市場、福岡証券取引所Q-Boardに重複上場

●所在地
本社
〒810-0001 福岡県福岡市中央区天神4-1-7 第3明星ビル6F

オープンオフィス
〒810-0001 福岡県福岡市中央区天神4-1-1 第7明星ビル1F

●会社HP
https://fusic.co.jp/

Profile レックスアドバイザーズ

公認会計士・税理士等の有資格者をはじめとする会計人材専門特化した人材紹介会社。
■公認会計士・税理士・経理の転職サイトREX
https://www.interview-adv.jp/
■株式会社レックスアドバイザーズ
https://www.rex-adv.co.jp/

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