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2016.12.19

平成27年分 富裕層の海外資産のトップは有価証券 国外財産調書から国税庁が実態把握

富裕層の海外資産を把握するために導入された「国外財産調書」制度。平成27年分の提出者数は8893件で、前年分と比較して若干提出件数は増加しました。ただ、富裕層全体数からすると、この提出数は少ないとの指摘もあります。今後、どれだけ国税当局が富裕層の海外資産情報を収集していくのか関心が高まっています。

世界の名だたる政治家や富豪、有名企業などがタックスヘイブンに資産を移転していたことが明るみになった「パナマ文書」には、約400件の日本の個人や法人の情報が含まれていました。パナマだけが国際的なタックスヘイブンではないので、全世界で見たとき、日本人がどれだけ海外に資産を持っていっているのか実態はつかめていません。

では、なぜ富裕層が海外に資産を持っていくのでしょうか?それは、「国税当局も把握できない」という理由がひとつにあります。税務調査においても、日本の国税当局の力が及ぶのが国内のみということからも、資産を海外に移転させたら簡単に調査できないとの考えもあるようです。

ただ、国税当局も黙って見ているだけではありません。情報収集に力を入れており、その中心的施策が「国外財産調書」制度です。

国外財産調書は、その年の12月31日時点で5千万円を超える国外財産を保有している「居住者」と、「非永住者を除く外国人居住者」に、自主的な申告による提出が義務付けられています。もし、提出しなかったり、虚偽記載がある場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられるほか、国外財産から生じた所得などに申告漏れや無申告が発覚した場合には、加算税が5%加重される厳しい内容です。

一方、提出者にはインセンティブもあり、記載された国外財産に係る所得税・相続税の申告漏れが生じたときであっても加算税が5%軽減されます。

アメとムチを使い分けた税制では珍しいものですが、その国外財産調書の提出状況をこのほど、国税庁が明らかにしました。
それによると、総提出件数は全国で8893件、総財産額は約3兆1643億円でした。

前年比で見てみると、総提出件数は約700件増加しており、108.7%増となっています。総財産額においても、約500億円増加しています。

国税局別提出件数のベスト3は、東京国税局5792件、大阪国税局1223件、名古屋国税局673件となっており、東京、大阪、名古屋の3国税局で全体の86.5%を占めています(図1参照)。 国税局別の総財産額においても、ベスト3は東京国税局2兆3274億円、大阪国税局3927億円、名古屋国税局1793億円となっており、こちらは3局で全体の91.7%を占めています。(図2参照)

平成27年分 富裕層の海外資産のトップは有価証券 国外財産調書から国税庁が実態把握

財産の種類別内訳では、総財産額3兆1643億円のうち、有価証券が1兆5327億円で全体の48.4%となっており、次いで預貯金6090億円(19.2%)、建物3250億円(10.3%)、貸付金1821億円(5.8%)、土地1277億円(4%)の順です。

とはいえ、これらの数字は、あくまで自主申告の範囲です。申告されない国外保有財産は、基本的には国税当局としても把握が困難です。8893件という総提出件数をどう見るかはさまざまだが、野村総合研究所が2014年11月に純金融資産保有額を基に保有世帯数の推計調査を実施した際、純金融資産保有額が1億円以上5億円未満を「富裕層」、同5億円以上を「超富裕層」として、これらを合わせた2013年時点の世帯数は100万7千世帯と発表しました(野村総合研究所のリリース)。この数字と比較すると、国外財産調書の提出は、まだ浸透途上にあるとも推測できるのではないでしょうか。

実際に、両親が海外に幾つか不動産を所有する私の知人に国外財産調書の話をしたところ、「なぜ海外の不動産まで自主的に日本の国税庁に報告しなければいけないのか」と、制度自体の理解もしていませんでした。経営者でもなければ、税理士を顧問にする人は少ないだけに、国外財産調書が広く浸透するはまだ時間がかかるものと思われます。

個人的な見方ですが、国外財産調書に記載された財産の種別から預貯金が思ったよりも少ないように感じます。推測ですが、有価証券や土地、不動産はモノがあるだけに相続が発生したら把握されやすいのです。預貯金に関しては、プライベートバンキングなどにもっと資産があるのではないでしょうか。

とはいうものの、現在、日本の国税当局だけでなく、世界の国税当局が国境を越えた富裕層の資産移転に高い関心を示しています。証券等の有価証券の取引、銀行口座情報など、自国民の情報は、国境を越えて情報交換できる制度を構築している最中です。そのため、下手に海外資産を隠すよりも、生前から合法的な相続税対策を検討しておくほうがずっと賢いと考えます。

海外には日本国内よりも利回りのよい投資商品も多くあり、将来の資産形成を考えれば、海外に資産の一部を移転させるのも至極当然の話です。ただ、資産形成のための情報は、投資商品だけでなく、税金問題もセットで対策を考えておく必要があります。税理士の中には、資産形成・相続対策に詳しいプロが少なからずいます。税理士も医者同様に専門領域があり、誰に依頼するかでサポートに雲泥の差が出てきます。その道の専門になってくればもちろん報酬も高額になりますが、後になって国税当局に否認され、追徴税額を納税するより総合的に見ればずっと効果的といえます。

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Profile 宮口 貴志

税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。フリーライター及び会計事務所業界ウオッチャーとして活動。株式会社レックスアドバイザーズ ディレクター。

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