税理士業界トピックス

税金・会計に関するニュースを分かりやすく解説します

2013.01.16

金持イジメで国外へ
節税国は潤う一方!?

平成25年度税制改正大綱の取りまとめが進んでいますが、どうも所得税、相続税とも高所得者に対する増税は間違いなさそうです。

 高所得者への課税は、やり過ぎると諸刃の剣と言えます。フランスの話になりますが、オランド政権は2013年度から、100万ユーロ(約1億円)以上の所得がある人の所得税の最高税率を、期限付きで41%から75%に大幅引き上げを検討しており、富裕層が隣国に続々逃げていると言います。

 有名な俳優のジェラール・ドパルデュー氏もその一人。「オランド大統領は成功、創造性、才能を罰すべきだと考えている」と言う捨て台詞を残して、ロシア国籍を取得しました。「まさかロシアに?」と思った方も少なくないようですが、ロシアの所得税率が一律13%ということが理由のようです。ロシア国籍を放棄する人は少なくないようですが、その逆と言うのは驚きです。ドパルデュー氏自身は「国籍取得の理由はロシアが偉大なる民主国家だからだ」と理由を話していますが、この言葉を聞いてプーチン大統領は喜び、わざわざロシア国民を証するパスポートを自ら手渡したと言います。

 フランス人富裕層の多く逃げ先は、隣国のベルギーだそうで、過去一年間で倍増し昨年は126人に上ったと言います。その中には、フランスの高級ブランド品最大手「モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)」のベルナール・アルノー会長もいます。ただ、当の本人は、あくまでも仕事上の問題で「節税目的ではない」と否定していますが、世間ではそう見ていないようです。

■アメリカでも国籍放棄者増える

一方で、米国でもオバマ政権の富裕層向けの増税が影響し、フランス同様の様相を呈しています。米国籍の放棄は徐々に増え、米財務省によると2011年の国籍放棄者は1781人で、前年から16%増加し、2008年との比較で約8倍にも増えています。

 米交流サイト大手「フェイスブック」の共同創業者、エドゥアルド・サベリン氏も、フェイスブックの新規株式公開(IPO)を前に米国籍を放棄し、現在、シンガポーに居住しています。シンガポールの所得税の最高税率は21%。さらに、シンガポールの税制ではキャピタルゲインに対しては課税されませんし、海外からの収入も課税されません。相続税及び贈与税もないとなれば、富裕層ならかなり魅力ある国と言えます。

ちなみに、米国では長期キャピタルゲインの税率は最高15%、所得税の最高税率は35%で、ともに引き上げられる公算が高いです。

■若い経営者が海外居住者に

最近では、インターネット環境があれば、国が違っていてもそれほど不自由なく仕事ができる環境が作れます。

 私の知人の経営者の中にも、家族とシンガポールに居住する人が出てきました。表向きは、「アジア進出を考えているため」と言っていますが、節税目的も半分ぐらいはあるようです。また、子育ての面からも、「幼児期に英語と中国語を学ばせたい」とシンガポールを選んでいます。

 若い世代は、インターネットで結ばれた“世界”を、中高年世代より狭くとらえています。20年、30年前には「日本―米国・ロス」間の航空券もエコノミークラスで15万~20万円ぐらいしましたが、最近は5万円程度からあります。中高年と若者の海外に関する感覚の違いは、この価格差分ぐらいの違いがあるように思われます。

育った環境にもよると思いますが、ヨーロッパに住んでいる友人は、国内を移動するように国境を越えて旅行、買い物をしています。日本という島国にいると、なかなかそういう感覚になれませんが、時代は変わってきていることを痛感します。日本に居る理由がなくなれば、生活しやすい国に富裕層は逃げます。金持イジメをしすぎると、かえって逆効果になることも考えなくてはいけません。

Profile 宮口 貴志

税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。フリーライター及び会計事務所業界ウオッチャーとして活動。株式会社レックスアドバイザーズ ディレクター。

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