税理士業界トピックス

税金・会計に関するニュースを分かりやすく解説します

2016.03.09

ヤフーとIBM裁判の明暗を分けたのは・・・ 課税当局の戦い方に問題は無かったのか

組織再編税制を活用した税務スキームが「租税回避か否か」で争われていた日本IBMの持ち株会社と国税当局との争いが2月19日、国税当局側の敗訴で決着しました。

国税当局は今後、還付加算金を上乗せして千数百億円を日本IBMに返還します。同様の争いとしてはヤフー裁判がありますが、こちらは2月29日、最高裁第1小法廷(山浦善樹裁判長)がヤフー側の上告を棄却。「企業再編税制を利用した租税回避目的の買収で、法人税を不当に減少させた」とする国税局側の主張を認めた一審、二審判決が確定しました。 結局、ヤフーは国に軍配があがり、IBMは国が敗訴する形で決着しました。
事実関係が異なるため、単純に比較することはできませんが、両争いとも国税の伝家の宝刀とも言われる「行為計算の否認」の解釈にポイントがあります。

ヤフー裁判は、租税回避の包括否認規定である法人税法132条の2「組織再編にかかる行為計算の否認」の解釈に踏み込んでいるため、行為計算の否認規定に関する従来の学説にも影響してくるとの見方もあります。
一方で、同じ包括否認規定である法人税法132条「同族会社の行為計算の否認」の適用の是非が争われたIBM事件では、法律の条文「法人税の負担を不当に減少させる」との考え方について、国税当局は「不当に」についての十分な説明がつかなかったといえます。突き詰めると、「証拠資料の量」があまりにも両者で違ったともいえます。

とはいうものの、IBMが利用したスキームは、平成22年度税制改正で「完全支配関係にある法人間における株式の譲渡で発生する譲渡損益は計上しない」などの改正が行われたことで現在は封じられました。
IBMを否定しているわけでは有りませんが、課税当局としては、IBM裁判の判決が確定する前に法律を変えたことは、私個人としてはあまり得策ではなかったように思えてなりません。勝てる裁判なら、同様のスキームが出てきても封じることはできますが、判決が確定する前に変えてしまったら、社会的なイメージとして負けることを想定していたものとも取れます。結果的に裁判所も、IBMに軍配を上げやすくなったのではないでしょうか。

それに、今回のIBM裁判は、国税当局側の進め方にも疑問が残ります。この点、何人かの識者の方も指摘していますが、132条だけで争い、近年話題の国際取引を焦点に争わなかったことです。アマゾンやグーグルなどの国際的租税回避問題は、OECD租税委員会でBEPS(Base Erosion and Profit Shifting)の議論されており、このIBM裁判も同様のステージで議論されるべきだったと思います。日本もBEPS対応を進めていくことを決めているいので、国際的に見たら勝敗はどうなっていたか・・・。BEPSは、「グローバル企業が国際的な税制の隙間や抜け穴を利用した節税対策により税負担を軽減している問題が顕在化」したことを直接のきっかけとして、これを防止することが目指しています。132条の解釈からは離れてしまいましたが、この2つの裁判を長年見てきて感じたことをつらつらと書かせてもらいました。

**** 専門メディアを開設しました ***************************
■会計人のための総合ニュースサイト「KaikeiZine(カイケイジン)」 
http://kaikeizine.jp/

 税金・会計に関するバラエティーニュースや会計事務所向けビジネス情報、
 会計人のライフ情報が見られる総合ニュースサイト。
 税金・会計に関するニュースを、他では読めない切り口で伝える専門メディアです。
 国税出身の専門家が監修する税金ニュースや、業界で活躍する記者・ライターが執筆する
 希少なネタはどれも一見の価値ありです!ぜひご覧ください。
*******************************************

Profile 宮口 貴志

税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。フリーライター及び会計事務所業界ウオッチャーとして活動。株式会社レックスアドバイザーズ ディレクター。

公認会計士・税理士・経理・財務の転職は
レックスアドバイザーズへ

カジュアルキャリア相談 カジュアルキャリア相談