税理士業界トピックス

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2012.10.01

法的根拠なし、罰則なしだけど
税務署への提出書類を無視すると!?

 税務署から提出をお願いされた書類等は、すべて提出しないといけないと思っている納税者も少なくありません。日本人の多くは、性善説に立っている人が多いため、「お役所から頼まれたものは、そうしなくちゃいけない法的根拠のあるもの」と思い込んでいるようです。

■「お尋ね文書」は税務調査時の有力情報

実は、税務署に提出する書類は、法律上の提出義務がある「法定文書」と、そうでない「法定外文書」に大きく分かれています。法定外文書は法律上の提出義務がないため、あくまで「お願いベース」なのです。 

普段、提出して当り前と思っている書類が、実はこの法定外文書だったりします。

新たに土地や建物を取得すると税務署から「お買いになった資産の買入価額などについてのお尋ね」が来ますが、この不動産を売買した際に送られてくる「お尋ね文書」も実は法定外文書です。

記載内容は、売主との関係や売買契約書の有無、支払金額の調達方法など、いかにも税務署が欲しそうな情報ばかりです。土地建物を売却した際にも「譲渡内容についてのお尋ね」があり、分離課税の申告書に添付して提出しますが、これも実は提出義務のない任意の資料なのです。

そんな話を納税者の方にすると、「なら無視しても良いじゃん」と強気になる方も少なくありませんが、無回答だとそれはそれで面倒なことになります。まず、税務署から督促のハガキが送られてきます。これを放っておくと、税務署から電話がかかってきます。さらに無視していると、税務調査の対象になることも少なくありません。「嫌がらせ?」と勘繰りたくなりますが、税務署からすれば、そこまでしても無視するのは「怪しい」という見方のです。

逆に親切に細かく回答したために、税務調査で痛くもない腹を探られるケースも後を絶ちません。正直に、されど適度に対応しておくのがベストなのかもしれません。

■法定文書の未提出 ペナルティのないものも

 さて、法定文書のなかで会計人からの関心が高いのが、平成24年度税制改正で導入が決まり、同26年から提出が義務付られる国外財産調書です。同25年中に亡くなった人や、同25年末で国外財産5千万円超の人が提出しなくてはなりません。

具体的には、①国外財産を記載、②財産時価が5千万円超、③国外財産調書の提出がある場合、申告漏れ等に係る所得税・相続税の5%相当額を加算税額から減免する、④提出がない場合には、申告漏れ等に係る所得税の5%相当額を加算税額に加算、⑤不提出や虚偽記載は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金―とうものです。

この国外財産調書については、アメとムチを使い分けしましたが、似たような書類が他にもあります。

兄弟でたとえれば兄貴分の「財産債務明細書」です。財産債務明細書は、年間所得が2千万円を超えると見込まれる資産家に対して税務署が年末に発送。12月31日現在所有している財産や債務について、その種類や金額を記入し、確定申告書に添付して提出する必要があります。

土地建物や現金、預貯金、有価証券はもちろん、1点(1組)10万円以上の書画・骨董・美術工芸品、貴金属類、自動車、家具といった動産、借入金や支払手形に至るまで細かく記入しなければなりません。税務署にとっては、調査しなくても資産家の情報が得られる非常に都合の良い代物です。

同明細書は所得税法232条に規定されたれっきとした法定文書です。しかし、提出しなくてもペナルティが実はありません。「え~ホント?」という会計人の方もいますが、そんなことあまり普通は考えませんよね。 ペナルティがないとは言いつつも、法定文書ですから提出しないと、督促ハガキが来て、電話が来て、果ては調査対象となるケースもあります。

ここで一つ、頭に入れておきたいのが、法的根拠がなかったり、未提出に関して「ペナルティがない」とされている文書でも、国税当局がその気になれば罰則をかけることが可能ということです。

各種税法には、国税通則法とは別に「罰則規定」が設けられています。たとえば、所得税法242条は、各種申告書に偽りの記載をしたり、税務職員の質問を無視または偽りの答弁をしたり調査拒否をした場合には、「1年以下の懲役または20万円以下の罰金」とあります。法人税法にも同様の罰則規定があります。そのため、法的根拠のない「お尋ね文書」でも、むやみに無視したり偽りの答弁をしたら懲役をくらう可能性だって全くないわけではなのです。

Profile 宮口 貴志

税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。フリーライター及び会計事務所業界ウオッチャーとして活動。株式会社レックスアドバイザーズ ディレクター。

公認会計士・税理士・経理・財務の転職は
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